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一対一の洋服づくりをおこなう井田 由希さんが、meetoomaskと出会って届けたかったマスクとは?

ファッション業界が抱える問題、「洋服の大量生産」「ファストファッション化」。そんな問題に対して、疑問をいだいていたクリエイターこそ井田 由希さん。だからこそ、彼女は必要な人に必要なものが届くようにと、「一対一の洋服づくり」にこだわっていると言います。今回は、そんな彼女がmeetoomaskプロジェクトに参加し、どう「マスク」というものに向き合っていくのか、についてお聞きしてきました。
※この取材は、コロナウイルス感染症の影響を考慮し、オンラインでおこなっております。また、写真につきましては、以前撮影されたものを掲載させていただいております。

「meetoomaskプロジェクト」とは

「今を守り未来を作るプロジェクト」
ただ物を作り伝統だから残す、ではなく本来未来にあって欲しいモノコトヒトを今から残して行こうよというプロジェクト。子ども達が暮らす未来を作るのは今の大人。

「洋服の大量生産」という自分の中にずっとあった疑問


IPSILON’S代表の井田由希さん。一対一の洋服づくり以外にも、食に関する仕事など、多方面で活躍されている。

―まずは、井田さんが運営をされている「IPSILON’S(イプシロンズ)」にいて、どういったブランドなのか教えてもらえますか。

井田 由希さん(以下、井田):アパレルブランド「IPSILON’S」は、一対一の洋服づくりをコンセプトに洋服をつくっています。お客さんが本当に望んでいる洋服はどんなものなのか、どうすればお気に入りの洋服を長く着れるのか、着づらい洋服をどう直せば着れるようになるのか。そんな風に、洋服に対してお客様と私自身が向き合い、心地よい洋服をつくっていくことがIPSILON’Sの仕事だと思っています。
現在は、お客さんのご要望をお聞きしつつオーダーやセミオーダー、リメイクとして洋服をつくっています。その洋服を着たときに心地よく感じてもらえるようにつくっていくので、お客さんからは、「気を使わずに着れる」「心地よい」と言ってもらえることが多く、生活の一部に溶け込んでいる感じがうれしいです。

―「一対一の洋服づくり」という言葉が印象的でした。このコンセプトにいきついたのは、どうしてなのでしょうか?

井田:ずっと自分の中で「洋服の大量生産」ということに疑問を感じていて。廃棄されてしまうような洋服をつくることって必要あるのかなと。一定の規格が決まった洋服が大量生産、販売されることでアパレル業界は潤うのですが、でもその分、サイズが合わない、似た洋服を持っている、などの理由で着る人が喜べない洋服が増えてしまって。そしてそれが破棄され、ゴミになることで人にも環境にも負荷をかけてしまう。そのことに気づき始めてから、「この現状をどうにかしたい」「大量生産ではない洋服づくりがしたい」、そう思うようになったんです。だからこそ、大勢に受け入れてもらえる洋服ではなく、必要な人のための洋服をつくれるアパレルブランドにしたいと考えたのが一対一の洋服づくりにつながっています。

幼少期に抱いた気持ちを胸に、ファッション業界で歩んできた苦悩の日々


井田さんの作業風景。丁寧に一鉢一鉢、縫っていく。

―小さい頃から洋服に興味があったとお聞きしましたが、興味をもつようになったきっかけを教えてください。

井田:洋服に興味を抱いたのは、実はあまり洋服が好きじゃなかったからなんです。小学生の頃から自分の体型がコンプレックスで、少しでも痩せて見えるようにいつも黒や紺、茶色など暗い色の服ばかりを着ていました。でも、そういう服を着ていると気分まで下がってしまい、毎日が楽しくなくて。だた、絵を描くことは好きだったので小学3年生くらいから自分が着たい洋服のデザイン画を描くようになったんです。花柄やカラフルな洋服をたくさん描いていくうちに、どんどん洋服やファッションという分野にのめり込んでいって。ちょうどその頃、お婆ちゃんが趣味で縫製をやっていたので、見様見真似で洋服をつくったこともあります。そして、いつしか「ファッションを仕事にすること」が自分の夢になり、ファッションを学べる大学に進学することにしたんです。

―幼い頃から洋服やファッションに関わっておられたのですね。明確な夢を持って進学されたと思いますが、大学生活の中で特に学んだことなどはありましたか?

井田:どうしてもファッションを仕事にしたのかったので、大阪のセレクトショップで自分のつくった洋服を販売したり、ファッションショーを定期的に開催したり、していました。大学で学んだこともたくさんありましたが、自分がつくった洋服を誰かに見てもらう実践の場があったことの方がより学びになったと思っています。

大学卒業後は、ファッション関係の会社で服をつくる仕事をしたかったのですが、実はどこからも内定をもらえなくて。それで、本当はあまり乗り気ではなかった「販売員」として東京で働くことにしました。でも今では、販売員を経験できてよかったなと思っています。なぜ洋服が高いのか、ブランドの見せ方、洋服の売り方、コンセプトの作り方、どれほど売り上げられるかなど、洋服を「売る」ためのスキルを身に付けられたのはよかったです。
販売員として働いた後、一度はコレクションを経験したいという想いから、コレクションブランドにインターンとして入ることにしました。デザイナーのもとで洋服をつくり、コレクションが始まる少し前に現地入りをする。ただ、それが本当に大変で。日本に帰ってくる頃には、体力的にも精神的にもギリギリの状態でした。

―なるほど。洋服をつくる側として就職をしようとするものの、叶わず。販売員として働いた後は、コレクションへ。どんなことがあろうとファッション業界からは退くことなく、仕事をされてきた姿を見ていると信念のようなものを感じます。

井田:パリから帰って来て数年後、2014年にブランドを立ち上げようと決意し、実際に立ち上げたのが2018年。そこから洋服とアクセサリーをつくりながら仕事もいただけるようになり、現在のコンセプト「一対一の洋服づくり」がはっきりしてきたのが、2019年になってからです。

マスクを付けることをファッションとして楽しんでほしい


女性のイラストが描かれており、キュートなイメージの井田さんのマスク。後ろでリボン結びができる。

―コロナ禍の状況である現在、私たちの生活の中で「マスク」というものの存在がどんどん大きくなっていったと思います。マスクの位置づけは今後どうなっていくのでしょうか。

井田:そうですね。コロナ禍であるからこそマスクの需要が高まり、マスクというものがファッションの一部になってきていると感じていました。その流れは自然な流れですし、良いと思うのですが、大量生産やファストファッションに近しいところがあるのではないかとも思っていたんです。つまり、使い捨てばかりが増え、大量にマスクが破棄されるような問題を引き起こしてしまうのではないかと。もちろん、医療面で考えると使い捨ての方が良いと思います。ただ、一般の方が使うマスクまで使い捨てだと、マスクの値段が上がってしまいますし、数が売れればいい、大量につくればいい、という考え方になってしまう。それだと環境にも影響が出てきてしまうかもしれない。そういったところも含めて考えると、ファストファッションと通じるところも多いのではないでしょうか。

―マスクがファストファッション化していく。少し前の暮らしの中では考えもしなかったことですが、今の状況を踏まえると確かにそうなってしまうのかもしれません。そういったマスクの現状も含め、今回、井田さんがmeetoomaskプロジェクトに参加されたのは、どうしてなのでしょうか。

井田:大量生産やファストファッションに疑問を持っていたこともあり、マスクというものに対して自分がどう関われるか模索していたときに、タイミング良くともみさんのFB投稿を拝見したんです。それで、これだ!と思って「ぜひやりたいです!」と連絡したことから、meetoomaskプロジェクトに関わることになりました。
今回は、「ファッションの一部として身に付けられるマスク」というコンセプトのもと、つくりました。これまでに自分用の布マスクはつくったことがあるのですが、ファッションにフォーカスしたマスクは初めて。耳にかけるのではなく、頭の後ろで紐をリボン結びで結ぶ形にし、ラブリーな雰囲気を出しています。マスクというものが「付けなくてはいけないもの」から「ファッションの一部」に代わってきている中、自分がどんなマスクをつくれるのか。そして、大量生産やファストファッション化せずに、必要な人にその人に合ったマスクが届くようにしていきたい。だからこそ、着ている洋服やファッションが崩れないようなマスク、ファッションの邪魔にならずプラスアルファーになるようなマスクをつくりたかったんです。マスクを付けることがファッションとして楽しめるようになればいいなと思っています。

―お話をお聞きしていて、やはりマスクづくりにも「一対一の洋服づくり」に通じるものがあるのだと思いました。マスクも既製品がすべてではなくて、人によってサイズが違うはず。その人にとって必要なマスクをつくるということは、まさに一対一。むしろその方が、居心地が良いのではないかと思います。では最後に今後、どんなマスクをつくっていきたいと考えておられるのでしょうか

井田:今回、meetoomaskのクリエイターマスク枠として出させていただいたマスクについては、今後色を選べたり、セミオーダー形式にしたりと、お客さんの細かい要望に応えられるようにしていきたいと思っています。マスクはこれから必要なものになってくる。なら、もっとマスクを付けることを楽しんでもらいたい。だからこそ、例えば暑くても蒸れない、肌に優しい、口紅が付かない、など細かいことに配慮しながらマスクをデザインしていきたいと思っています。

後書き

自らを“ライフクリエイター”と呼ぶ井田さん。そこには、洋服やファッションだけにとどまらず、「衣食住」の領域でそれぞれが心地よいと感じるように生きてほしいという願いが込められています。想いを1つずつ形にしている彼女だからこそのマスクが届くべき方へ届きますように。

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  • 井田 由希/ Ida Yukiライフクリエイター/IPSILON’Sデザイナー

    ”心地よく衣食住を変えていく”ことをモットーに、洋服のデザイン、パターン、縫製のお仕事をメインに、食に関するお仕事も展開中。女性と仕事、コミュニティの多様性、環境問題を考えるトークイベントの開催やワークショップなど、多方面での活動から自分自身と周りの人達がより楽しく生きられる方法を探索&シェアしている。

  • 西野 愛菜/ Mana Nishinoライター

    京都生まれ京都育ち。学生時代、「想いのしおり」という職人さんの想いを発信するフリーペーパーの代表兼ライターを務める。京都美術工芸大学卒業後、編集者として日々奮闘中。